科学技術の進歩によって、若返りが可能になる日がやがて訪れようとしています。人間の寿命を30~60%伸ばす可能性を秘めた先進的な医薬品の臨床試験も、初期段階ではありますが、すでに始まっています。

近い未来に科学進歩の恩恵を受ける日が来るまで、少しでも長く、できるだけ健康な状態を保っておきましょう。

さっそく今日から始められる「長寿革命の恩恵を受けるポイント」として、まずは「睡眠」を取り上げたいと思います。

 

2021年のOECD(経済協力開発機構)の調査によると、日本人の睡眠時間は7時間22分で、対象国(33か国)の中で最も短い結果となりました。

また2024年8月に厚生労働省が発表した調査では、睡眠で休養が充分にとれていない割合は2割で、年々増加傾向にあることが明らかとなっています。

睡眠時間の確保はもちろんですが、長く寝ればいいわけでもないようです。適正な睡眠時間は個人差があるため、一概に言えません。
ですが睡眠の質をよくするよう努めることは、可能です。
これからの時代は「質のよい睡眠」を目指していくことが重要です。

 

「高齢者は睡眠時間が短くて済む」という神話

カリフォルニア大学バークレー校の神経科学者、マシュー・ウォーカー教授は2019年に:

 

「1日の睡眠時間が5時間の男性は、7時間以上の男性に比べて睾丸の大きさが格段に小さい。睡眠不足は男性を10年老けさせる。」

 

と発言しています。心身の健康維持と長寿には、睡眠がとても大きく関わるのです。

睡眠の量と質は、いずれも40歳前後から低下します。ウォーカー教授によると「高齢者は睡眠時間が短くて済む」というのは、まったくの誤りです。

また教授は「認知機能低下の真犯人は、睡眠の質の低下ではないか」とも推論します。

睡眠不足による健康リスクは、認知機能だけでなく、心臓発作、脳卒中、喘息、関節炎、抑うつ、高血糖、糖尿病、腎臓病などの疾患、肥満、交通事故や労働災害に至るまで発生リスクが高まるとされます。(※出典1)

それを裏づけるかのように日本の厚生労働省も2023年、睡眠不足の健康リスクとして肥満、高血圧、糖尿病、心疾患、脳血管疾患、認知症、うつ病などの発症リスクが高まることを指摘しています。さらに、睡眠時間が6時間未満になると死亡リスクが上昇することも述べています。(※出典2)


睡眠の質をサポートする、NMN

NMNは、体内でNAD+(ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド)に変換され、エネルギー代謝や細胞修復に深く関わっています。最新の研究では、NAD+レベルが加齢とともに減少し、これが睡眠の質低下やサーカディアンリズム(体内時計)の乱れに寄与している可能性が指摘されています。

NAD+とサーチュイン遺伝子(長寿遺伝子)の役割を含む研究では、加齢によるNAD+の減少がサーカディアンリズムに悪影響を与えることが示されています。(※出典3)

NMNやレスベラトロールは、NAD+レベルの維持を通じてサーチュイン遺伝子を活性化し、睡眠リズムを整える効果が期待されます。特に、年齢とともに減少するNAD+の補充は、睡眠の質を向上させるために役立ちます。


テロメアと睡眠との関係

最近のテロメア研究では、睡眠時間が長いほどテロメアの短縮が遅くなる傾向があり、特に7時間以上の睡眠を取ることがテロメアの維持に有効であることが示されています​。(※出典4)
ある研究では、睡眠の質の低下とテロメア短縮は関連するという結果も見られます。特にストレスや不十分な睡眠が重なると、テロメアに悪影響を与えることが示唆されています。(※出典5)

テロメアは、細胞の老化や寿命に深く関与する重要な構造です。染色体の末端に位置する特定のDNA配列で、細胞分裂のたびに短縮していきます。この過程が進むことで、細胞は最終的に分裂を停止し、老化を迎えるのです。テロメアを維持するための酵素であるテロメラーゼは、重要な役割を果たしています。

良質な睡眠を確保することが、テロメアの短縮を抑え、長期的な健康に寄与する可能性が高いと考えられています。ただし、さらに詳しいメカニズムを解明するためには、今後も多くの研究が必要です。 


質のよい睡眠と、TA-65

TA-65は、テロメラーゼを活性化し、細胞の老化を遅らせる効果が期待されているサプリメントです。直接的な睡眠の改善効果を示す研究はまだ少ないですが、TA-65は細胞全体の健康維持と老化の遅延をサポートするため、間接的に睡眠の質によい影響を与える可能性があります。

加齢に伴うテロメアの短縮は、慢性的な疲労や睡眠の質低下に関連していることが知られています。TA-65がテロメアを保護することで、これらの加齢に関連する問題を軽減し、結果として睡眠の質を改善する可能性があります。


定期的な運動

運動は、睡眠の質向上に大きく貢献することが証明されています。定期的な有酸素運動や筋力トレーニングは、テロメアの長さを保つのに効果的です。運動は全身の循環を改善し、細胞の酸化ストレスを減少させるため、テロメアの短縮を抑える効果があります。

運動は「老人病」の多くを改善し、早世リスクを30~35%減らすともいわれます。

また1日あたり15~25分程度の適度な運動を続けるだけで、肥満の人なら3年、健康な人なら7年の寿命延長が可能になるともいわれています。(※出典6)

1万6千人以上の高齢女性を対象に行われた2019年の調査では、1日に平均4,400歩だった人は、2,700歩以下の人に比べ、調査期間の死亡率が40%も低いことがわかっています。(※出典7)


カフェインやアルコールの制限

コーヒーやアルコールは、睡眠の質を低下させる要因です。午後にコーヒーを飲むことで、夜に熟睡する時間が遅くなり、その分、睡眠時間も短くなります。

 これらの摂取を制限することで、より深い睡眠を得ることができます。


デバイスを遠ざける

厚生労働省は2019年の国民健康・栄養調査で「スマートフォンの普及による生活様式の変化」が睡眠の妨げになっていることを指摘しています。

睡眠時間を少しでも確保するために、スマホやタブレットなどのデバイスは、寝る直前には見ないようにしましょう。寝ながらスマホは、明日という日から時間を借りている行為といえます。


眠りやすい寝室にする

質のよい睡眠を作るには、安全な暗闇と涼しい部屋を作りましょう。遮光カーテンを使用し、室温も適度に保ちましょう。

1日7時間以上の睡眠を確保するために、1日8時間以上をベッドで過ごすという考え方もあります。
これに関してニュースサイト「ハフポスト」創業者のアリアナ・ハフィントン氏は、温浴・瞑想・感謝の表現といった「入眠の儀式」を行なってから、リラックスした状態で眠りにつくことを提案しています。



総括

NMNやTA-65は、直接的には睡眠そのものと関連しているというよりも、睡眠の質を向上させる体全体の健康状態の改善に寄与する可能性が示唆されています。良質な睡眠は、細胞の修復、代謝、免疫機能にとって重要であり、NMNやTA-65がそれをサポートする可能性があるという点で、間接的に関係があると言えます。

 

睡眠は心地よい至福の時間である一方、睡眠不足は体の健康と寿命に重大な影響を及ぼすものです。たとえ悩み事があったとしても、とりあえずしっかり寝てから考えることが大切です。




※出典1:
National Center for Chronic Disease Prevention and Health Promotion and Division of Population Health (2017)
"Sleep and Sleep Disorders: Data and Statistics." Centers for Disease Control and Prevention.

※出典2:「健康づくりのための睡眠ガイド」(令和6年9月18日一部修正)

※出典3:
Imai, S., & Guarente, L. (2014)
"NAD+ and sirtuins in aging and disease." Trends in Cell Biology, 24(8), 464-471.

 ※出典4:
Kathryn A. Lee, RN, PhD, CBSM, Caryl Gay, PhD, Janice Humphreys, RN, PhD, Carmen J. Portillo, RN, PhD, Clive R. Pullinger, PhD, Bradley E. Aouizerat, MAS, PhD (2014)
"Telomere Length is Associated with Sleep Duration But Not Sleep Quality in Adults with Human Immunodeficiency Virus." Sleep, Volume 37, Issue 1, January 2014, Pages 157–166.

※出典5:
Prather AA, Gurfein B, Moran P, Daubenmier J, Acree M, Bacchetti P, Sinclair E, Lin J, Blackburn E, Hecht FM, Epel ES (2015) 
"Tired telomeres: poor global sleep quality, perceived stress, and telomere length in immune cell subsets in obese men and women." Brain Behav. Immun 47, 155–162. 10.1016/j.bbi.2014.12.011.

※出典6:
Anna Azvolinsky (2013)
"Exercise Boosts Life Expectancy. Study Finds," Lice Science, May 30 2013. 

※出典7:
Pedro F. Saint-Maurice et al.(2020)
"Association of Daily Step Count and Step Intensity With Mortality Among US Adults," Jama 323, no. 12, 2020.