Health & Longevity Column

あなたの「老い方」は、
遺伝子より環境が決めている

健康と老化を考えるコラム

「長寿かどうかは、親から受け継いだ遺伝子で決まる」——そう思っている方は少なくないでしょう。たしかに、家系や体質は老化に影響します。しかし近年の研究は、それとは少し異なることを示しています。

老化の速さを左右するのは、遺伝子よりも「毎日の環境」である。

これが、世界各地の研究者たちが少しずつ明らかにしてきた、新しい老化の常識です。

 

 

遺伝子の影響は、思ったより小さかった

イギリスの全国規模の医療研究データ(UK Biobank)を使った研究で、「遺伝」と「環境」がそれぞれ老化にどれほど影響するかを詳しく調べたものがあります(Nature Medicine、2025年)。

その結果は、研究者たちにとっても驚くべきものでした。

死亡リスクへの影響:遺伝子で説明できる部分は2%未満
一方、環境要因は17%以上
環境の影響は遺伝子の 8倍以上

心臓病や肺の病気、肝臓の病気については、環境要因が病気の発症の差異の5〜50%近くを占めていたといいます。「病気になりやすいかどうか」は、体質よりも暮らし方や住む環境に、より大きく左右されているのです。

「生物学的な年齢」とはどういうことか

年齢には、戸籍上の年齢(暦年齢)と、体の内側の状態を表す「生物学的年齢」があります。

最近の研究では、DNAメチル化(遺伝子のスイッチを入れたり切ったりする仕組み)や、体内のタンパク質の変化パターンを調べることで、その人の体が実際にどれくらいの速さで老いているかを測ることができるようになりました。

興味深いのは、同じ60歳でも、環境への曝露歴によって、この「体の年齢」が10〜15歳も異なることがある、という点です。暦の上では同い年でも、体の中では大きく差がついていることがあるわけです。

日常のなかに潜む、老化を早めるもの

では、老化を早める「環境要因」(環境中の有害物質にさらされること;Environmental Exposures)とは何でしょうか。研究が注目するのは、主に次のようなものです。

重金属(カドミウム・鉛など)——大気汚染や一部の食品・タバコの煙などを通じて体内に蓄積しやすく、細胞のエネルギー産生を妨げ、DNAにダメージを与えることがわかっています。
大気汚染——車の排気ガスや工場からの微粒子(PM2.5など)は、慢性的な炎症を引き起こし、細胞レベルでの老化を促進します。
内分泌かく乱物質(環境ホルモン)——プラスチック製品や一部の日用品・化粧品などに含まれる化学物質で、ホルモンバランスを乱し、代謝や免疫の機能に影響を与えます。

いずれも「すぐに病気になる」というほどの急性の毒性はありませんが、長年にわたって少しずつ積み重なることで、体の老化時計を早めてしまうと考えられています。

「変えられないもの」より「変えられるもの」に目を向ける

この研究が伝えるもっとも大切なメッセージは、「老い方は、ある程度自分でコントロールできる」という希望です。遺伝子は変えられませんが、環境は変えることができます。

1室内の空気をきれいに保つ(換気、空気清浄機の活用など)
2水道水が気になる場合は浄水器を検討する
3加工食品をなるべく減らし、素材のシンプルな食事を心がける
4プラスチック製の容器より、ガラスや陶器を選ぶ
5日中に適度に体を動かし、汗をかく習慣をつける

どれも、特別な努力や大きな出費が必要なものではありません。日々の小さな選択の積み重ねが、体の内側からの老化の速度を変えていく可能性があるのです。

おわりに

「うちは長命の家系だから大丈夫」「親が早く亡くなったから自分も……」——そうした思い込みは、少し脇に置いてみてください。

研究が示すのは、「どのような環境の中で、何を食べ、何を吸い、どう動いてきたか」が、老化を語る上でずっと重要だということです。

年齢を重ねることは避けられませんが、その「重ね方」は、意外なほど自分の手の中にあるのかもしれません。

参考文献

1.Aging (Albany NY) 2025; 17(2) — Environmental chemical exposures and biological aging: a DNA methylation analysis using NHANES data.
2.Kresovich JK, et al. — Association of blood cadmium and lead levels with epigenetic age acceleration. Aging 2025; 17(2).
3.Patel CJ, et al. — Comparative contributions of environmental and genetic factors to mortality and disease risk. Nature Medicine, February 19, 2025.
4.Bollati V, Baccarelli A — Environmental exposures and epigenetics: molecular effects on aging. La Medicina del Lavoro 2021; 112(1): 8–14.
5.Cadmium-induced disruption of calcium signaling and mitochondrial dysfunction. International Journal of Biochemistry and Molecular Biology 2024; 15(4): 107–117.
6.Lead exposure and neurodegenerative disease risk: a review. Journal of Hazardous Materials Advances, Vol. 7, August 2022, 100094.
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